井上靖と恋愛小説

――作品を「横断的」に読むためのExcel整理ノート

井上靖の肖像写真

井上靖の文学

芥川賞受賞作家であり、ノーベル文学賞候補にも挙げられた井上靖は、『闘牛』『猟銃』をはじめ、歴史小説『天平の甍』『敦煌』『風林火山』、自伝的小説『しろばんば』『あすなろ物語』など、多彩な代表作を持つ作家である。その作風は、一瞬と永劫、存在と虚無を見据える清冽な視線に貫かれ、ときに《白い河床》と評されてきた。

恋愛ストーリーテラー 井上靖

一方で、井上靖には歴史小説や自伝的小説とは別に、独自の輪郭をもった恋愛小説群がある。これらの作品は決して忘れられてきたわけではなく、固定した読者を持ち、折に触れて論じられてもきた。ただし、歴史小説や自伝的小説に比べれば光の当たり方はやや控えめであり、体系的に語られる機会が多くなかったのも事実だろう。

『氷壁』を金字塔とする井上靖の恋愛小説は、感傷や激情に流れることなく、男女関係の機微をきわめて冷静に、しかし鋭く描き出す。そこには過剰な説明や劇的な結末はないが、抑制された情緒と、読み終えた後に静かに残る余韻がある。珠玉の短編・中編が多いのも、この系譜の特徴である。

評論家の福田宏年は、井上の恋愛表現を「恋愛純粋培養」と呼んだ。恋愛を制度や肉体から切り離し、感情の核だけを抽出するその姿勢には、ある一定の型が認められる。

本サイトでは、こうした「恋愛純粋培養」という特徴が、個々の作品の中でどのように現れているのかを、作品ごとに細かく整理している。たとえば、男女の関係が肉体関係まで発展するのか、接吻止まりなのか、あるいは思慕で終わるのか。どちらが、どのような理由で身を引くのか。二人は既婚者なのか独身なのか。そして、両者の「愛」を阻むものは何なのか――。こうした要素を、矢印や記号、注釈などを用いてExcel上に整理し、作品を横断して比較できるようにした。

そうして個々の作品を並べていくと、井上靖の恋愛小説に繰り返し現れる男女関係の型が浮かび上がってくる。そこから見えてくるものの一つが、福田宏年のいう「恋愛純粋培養」なのである。

ある種偏愛的とも言えるこのExcel整理ノートに加え、作品の舞台や井上靖ゆかりの地を実際に訪ねた記録も、動画として紹介している。

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大原麗子さん 特設ページ